仏教経済学

日の暖かさが少しはやい春の訪れを感じるこの頃。一方で朝と夜の寒さに、活動を鈍化させているように感じます。初動の遅さを環境のせいにする自分に反省をしております…。

仏教の教えに基づいた経済活動・経済システム

ここでいう「仏教経済学」とは、『スモール イズ ビューティフル』(1986)という著作を取り上げています。

そもそもなにそれ?ということですが、仏教経済学は、仏教の教えや原則に基づいて経済活動や経済システムを考察する学問領域です。これは比較的新しい概念であり、西洋の経済学とは異なる視点から経済を捉えようとする試みです。

仏教経済学では、個人や社会の幸福や繁栄を達成するために、経済活動がどのように行われるべきか、またお金や資源の分配についてどのような原則があるかを考察するもので、仏教の教えに基づく価値観が反映されています。

仏教経済学は、経済学における成長や効率性だけでなく、持続可能性や倫理的な観点からの問題解決を重視します。そのため、現代の経済学における一部の課題や限界に対する新しいアプローチとして注目されています。

仏教的な「仕事」の役割

本書の「第4章 仏教経済学」(p.69)の冒頭は「仏教の八正道の一つに「正しい生活」がある。したがって、仏教経済学があってしかるべきである」から始まる。八正道は仏教の生き方を表した8つの徳目であり、目指すべきものとされる。

本書を読み進めていくと、仏教的な観点からする「仕事」の役割についてこう書かれている。

仕事の役割というものは少なくとも三つある。人間にその能力を発揮・向上させる場を与えること、一つの仕事を他の人たちとともにすることを通じて自己中心的な態度を棄てさせること、そして最後に、まっとうな生活に必要な財とサービスを造り出すことである。

『スモール イズ ビューティフル』p.71

創造的活動を通した生産物よりも、まず第1に働いている人間に対して言及していることがわかる。仕事に追われ、心身ともに疲弊しながら、お金を得るよりも自身のやりがいや生活スタイルに合った仕事を見つけることの方が精神衛生上良いということだろう。

実際に求人検索エンジン「Indeed (インディード)」の日本法人であるIndeed Japan株式会社は、5ヵ国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国)において、現在就業中の20~50代の正社員(無期雇用/フルタイム就業者)男女計8,848名を対象に、「転職」に関する意識調査を実施した。その結果の一部に「【転職経験】日本の転職経験率は6割以下。イギリス・アメリカは9割以上が経験あり、日本は最下位」とある。

日本は転職未経験者の割合が40.3%。転職経験率は、日本59.7%に対し、イギリスは92.7%、アメリカは90.1%、ドイツは84.2%、韓国は75.8%で日本は最下位。改めて日本の転職経験者の少なさが明らかに。

https://jp.indeed.com/press/releases/20230627#:~:text=【転職経験】日本の転職,で日本は最下

仏教的経済活動と経済システムのすすめ

仏教経済学に基づく仏教の教えとは何か。

①無欲・節制の教え: 仏教では、無欲や節制が重要視されます。経済活動においても、無駄な消費や過剰な欲望を抑制することが、個人の幸福や社会の調和に繋がると考えられています。

②中道: 仏教の教えでは極端な富と貧困の対立を避け、中庸の道(中道)を行くことが重要視されます。経済システムにおいても、富の分配や社会的不平等を適切に調整することが求められます。

③因果応報: 仏教では因果応報(縁起)の教えがあり、過去の行いが将来に影響を与えるとされます。経済活動においても、倫理的な観点から行動することが強調されます。

④利他: 仏教では、他者への利益や幸福を重視する利他主義が教えられています。経済活動においても、単なる利益追求だけでなく、他者や社会全体の幸福を考える視点が重要視されます。

⑤環境への配慮: 仏教では、環境や自然との調和が重要視されます。経済活動においても、環境への負荷を最小限に抑えることが求められます。

そうは言ってもお金がないことには…

本書の中でも語られていますが、仏教徒は「解脱」あるいは「悟り」あるいは「気づき」あるいは…といったことに主たる関心を向けます。

仏教は「中道」であるから、けっして物的な福祉を敵視しはしない。解脱を妨げるのは富そのものではなく、それを焦がれ求める心なのである。

『スモール イズ ビューティフル』p.74

お金そのものではなく、お金に振り回されることが自身の人生の本質を見失うことに他ならないということである。心も生活も豊かであるという前提に立ちながらも、一度立ち止まり自己点検する時間を作る、その実践が坐禅なのかもしれません。